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2024.05.23
特定技能「建設」の外国人材を採用する方法を詳しく解説
2018年12月14日、出入国管理及び難民認定法および法務省設置法の一部を改正する法律(改正入管法)が公布され、新たな在留資格である特定技能が創設されました(※1)。特定技能の対象には、人手不足が深刻化する建設分野も含まれます。
2022年4月には、熟練した技能が求められる2号特定技能外国人が建設分野において初めて認定されました(※2)。特定技能外国人制度(特定技能制度)を利用し、即戦力となる外国人材の受け入れを進めましょう。
本記事では、特定技能「建設」の概要や、従来の技能実習生との違い、働くことができる職種や採用に当たっての要件など、建設業における特定技能外国人制度のポイントを解説します。
※1 国土交通省「概要、関係資料【特定技能制度(建設分野)】」
※2 国土交通省「建設分野における外国人材の受入れ」P2
特定技能「建設」とは?
2018年12月14日に、一定の専門性・技能を持つ外国人材の受け入れを目的として、在留資格「特定技能」が創設されました。特定技能には、①介護、②ビルクリーニング、③素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、④建設、⑤造船・舶用工業、⑥自動車整備、⑦航空、⑧宿泊、⑨農業、⑩漁業、⑪飲食料品製造業、⑫外食業の合計12分野があり、特定技能「建設」はその一分野です。
建設分野における特定技能外国人の受け入れは、2019年4月(※1)から始まっており、2022年4月には熟練した技能や実務経験が求められる2号特定技能外国人の受け入れも行われました。2023年10月末の時点で、建設分野の特定技能外国人の総数は2万2,309人、そのうち2号特定技能外国人は合計26人です(※2)。
建設業界は、深刻化する人手不足や、現場労働者の相次ぐ高齢化、若手人材の建設業離れといった課題に悩まされてきました。特定技能外国人制度は、そうした課題の解決策になり得る制度です。
実際に即戦力となる外国人材の確保や、技能実習生にもっと長く働いてもらいたいという理由から(※特定技能1号は技能実習生からの切り替えが可能)、特定技能外国人の受け入れは年々増加しています。
※1 一般社団法人 建設技能人材機構(JAC)「建設分野特定技能の評価試験情報と申込み」
※2 国土交通省「建設分野における外国人材の受入れ」P2
建設業における特定技能と技能実習の違い
外国人材の受け入れが可能な在留資格には、特定技能の他に技能実習があります。技能実習は、1993年に創設された外国人技能実習制度(技能実習制度)に基づく在留資格で、2016年11月28日の法改正により、技能実習生の権利向上などの制度拡充が行われました(※1)。
特定技能外国人制度が始まる以前、建設業界は現場の働き手として、主に技能実習生の受け入れを行ってきました。2022年の時点でも、建設分野における技能実習生の総数は7万489人に上り、在留資格別に見て最多となっています(※2)。
従来からある技能実習と、新しく始まった特定技能には、以下の表のような違いがあります(※3)。
技能実習 | 特定技能 | |
目的 | 日本で習得した技術を母国に移転するための実習制度 | 即戦力となる外国人材を受け入れるための就労制度 |
業務 | 技能実習計画で定められた業務にのみ従事し、単純労働には従事できない | 一定の専門性・技能を要する業務を主たる業務とし、関連業務として単純労働にも従事できる |
技能水準 | 不問 | 就労する分野において一定の専門性・技能が必要 |
転職 | 不可 | 同一の職種であれば可 |
在留期間 | 技能実習1号:1年間 技能実習2号:2年間 技能実習3号:2年間 |
特定技能1号:最長5年間 特定技能2号:無期限 |
家族の帯同 | 不可 | 特定技能2号のみ条件付きで家族(配偶者や子)の帯同可 |
特定技能と技能実習の大きな違いの一つは、求められる技能水準です。特定技能の場合、在留資格の取得に当たって、就労する分野における一定の専門性・技能が必要です。そのため、外国人材を受け入れる企業にとっては、即戦力の確保が期待できるというメリットがあります。
また技能実習の場合、在留期間が1~2年と短く、さらに1号・2号・3号の3つの在留資格を合わせて、通算5年間しか日本に滞在できません。特定技能なら、特定技能1号は最長5年間、特定技能2号は上限なしで日本に滞在することが可能です。
技能実習2号を良好な成績で修了すると、特定技能1号への切り替えが可能なため、優秀な技能実習生の在留期間を延長し、引き続き自社で働いてもらいたい、という場合にも特定技能外国人制度が適しています。
※1 厚生労働省「外国人技能実習制度について」
※2 国土交通省「建設分野における外国人材の受入れ」P2
※3 一般社団法人 建設技能人材機構(JAC)「特定技能と技能実習の10個の違い。長所や注意点も知って検討を」
特定技能「建設」で働くことができる職種
特定技能「建設」で働くことができるのは、建設分野における全ての職種です。これまでは19の業務区分に分けて特定技能外国人の受け入れが行われてきましたが、2022年8月30日の閣議決定により、建設業における全ての業務において受け入れが可能になりました(※1)。
ただし、特定技能「建設」の取得に必要な試験は、土木区分、建築区分、ライフライン・設備区分の3区分に分かれており、試験に合格した区分の範囲内で業務に従事できます。各区分の試験に合格した方が、従事できる業務の範囲は以下の表のとおりです(※1)。
試験区分 | 土木 | 建築区分 | ライフライン・設備区分 |
従事することが可能な範囲 |
|
|
|
※1 国土交通省「建設分野における外国人材の受入れ」P4-5
特定技能1号・2号「建設」を取得するための要件
特定技能「建設」には、特定技能1号・2号の2つの在留資格があり、それぞれ取得するための要件が異なります(※1)。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
技能水準 | 以下のいずれかの試験に合格
技能実習2号を良好に修了した者は試験免除 |
以下のいずれかの試験への合格に加えて、一定の実務経験(※)が必要
※建設現場において複数の建設技能者を指導しながら作業に従事し、工程を管理する者(班長)としての経験 |
日本語能力水準 | 以下のいずれかの試験に合格
技能実習2号を良好に修了した者は試験免除 |
試験免除 |
建設分野で特定技能1号・2号を取得するには、建設技能人材機構(JAC)が実施する特定技能評価試験(学科試験および実技試験)に合格するか、国家検定制度である技能検定に合格する必要があります。
ここでは、それぞれの試験内容や合格基準について解説します。
※1 国土交通省「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領」P8
特定技能評価試験
特定技能評価試験とは、国土交通省が定めた試験実施要領に基づいて、建設技能人材機構(JAC)が実施している試験です。特定技能1号を取得する場合は特定技能1号評価試験、特定技能2号を取得する場合は特定技能2号評価試験の合格が必要となります。
特定技能評価試験は、学科試験と実技試験の2つに分かれており、それぞれの試験内容や合格基準は以下の表のとおりです(※1)。
【特定技能1号評価試験】
学科試験 | 実技試験 | |
問題数 | 30問 | 20問 |
試験時間 | 60分 | 40分 |
出題形式 | 真偽法(○×)および2~4択式 | 真偽法(○×)および2~4択式 |
実施方法 | CBT方式 | CBT方式 |
合格基準 | 合計点の65%以上 | 合計点の65%以上 |
【特定技能2号評価試験】
学科試験 | 実技試験 | |
問題数 | 40問 | 25問 |
試験時間 | 60分 | 40分 |
出題形式 | 4択式 | 4択式 |
実施方法 | CBT方式 | CBT方式 |
合格基準 | 合計点の75%以上 | 合計点の75%以上 |
特定技能1号評価試験よりも、特定技能2号評価試験の方が問題数が多く、かつ合格基準も厳しくなっています。特定技能評価試験の試験範囲やサンプル問題、各言語(英語やインドネシア語、ベトナム語など)の学習テキストは、建設技能人材機構(JAC)のホームページで閲覧できます。また試験の申し込みも、スマホアプリ「JAC ExamForm」のインストールが必要です。
※1 一般社団法人 建設技能人材機構(JAC)「建設分野特定技能の評価試験情報と申込み」
技能検定
技能検定とは、働く上で必要な技能を評価することを目的とした国家検定制度で、2023年4月1日の時点で131職種の試験があります(※1)。技能検定に合格すると、厚生労働省によって合格証書が交付され、技能士を名乗ることができます。
特定技能1号を取得する場合は技能検定3級、特定技能2号を取得する場合は技能検定1級の合格が必要です。特定技能「建設」の試験区分(土木区分、建築区分、ライフライン・設備区分)ごとに、それぞれ以下の技能検定が対応しています(※2)。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
土木区分 |
|
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建築区分 |
|
|
ライフライン・設備区分 |
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※1 厚生労働省「技能検定制度について」
※2 国土交通省「特定の分野に係る特定技能外国人受入れに関する運用要領」P45-50
受け入れをする企業側の要件
建設分野で特定技能外国人を受け入れる場合、以下の4つの要件を満たす必要があります。
- 建設業法第3条の認可
- 建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録
- 建設技能人材機構(JAC)への加入
- 建設特定技能受入計画の認定
建設分野独自の基準もあるため、受け入れ前にしっかりと確認しておきましょう。
1. 建設業法第3条の認可
一つ目の要件は、建設業法第3条における認可です。
特定技能「建設」による外国人材の受け入れは、建設業法第3条の規定に基づいて、建設業の許可を取得した事業者のみ認められます。建設業の許可を取得できるのは、以下の28業種です(※1)。
”土木工事業、建築工事業、大工工事業、左官工事業、とび・土工工事業、石工事業、屋根工事業、電気工事業、管工事業、タイル・れんが・ブロツク工事業、鋼構造物工事業、鉄筋工事業、舗装工事業、しゅんせつ工事業、板金工事業、ガラス工事業、塗装工事業、防水工事業、内装仕上工事業、機械器具設置工事業、熱絶縁工事業、電気通信工事業、造園工事業、さく井工事業、建具工事業、水道施設工事業、消防施設工事業、清掃施設工事業”
2. 建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録
2つ目の要件は、建設キャリアアップシステム(CCUS)への登録です。
建設キャリアアップシステムとは、建設業振興基金が運営するシステムで、外国人材の資格や就業履歴を登録し、処遇改善につなげることを目的としています。
建設キャリアアップシステムへの登録は、建設業振興基金のホームページか、認定登録機関による窓口で申し込みが可能です。登録申請は受け入れ企業だけでなく、特定技能外国人も行う必要があります。
3. 建設技能人材機構(JAC)への加入
3つ目の要件は、特定技能外国人受入事業実施法人である建設技能人材機構(JAC)への加入です。
ただし、すでに建設技能人材機構(JAC)の正会員である建設業者団体の会員になっている方は、加入の必要はありません。建設業者団体の会員でない場合は、建設技能人材機構(JAC)に加入し、賛助会員となる必要があります。
4. 建設特定技能受入計画の認定
4つ目の要件は、建設特定技能受入計画の認定です。
特定技能「建設」による受け入れ企業は、建設特定技能受入計画を策定し、オンライン(外国人就労管理システム)による申請を行う必要があります。建設分野における上乗せ規制とも呼ばれ、他の特定技能の分野にはない独自の要件です。
特定技能「建設」の受け入れにかかる費用
建設分野の場合、特定技能外国人の受け入れに当たって、以下の費用を負担する必要があります。
- 建設技能人材機構(JAC)の年会費
- 一人当たりの受入負担金
1. 建設技能人材機構(JAC)の年会費
一つ目の費用は、建設技能人材機構(JAC)に支払う年会費です。
前述のとおり、建設技能人材機構(JAC)の正会員である建設業者団体に加入していない場合、賛助会員(企業・個人)となる必要があります。賛助会員の年会費は以下のとおりです(※1)。
賛助会員 | 年会費 |
企業および建設関連団体 | 24万円 |
登録支援機関 | 24万円 |
※1 一般社団法人 建設技能人材機構(JAC)「年会費と受入負担金」
2. 一人当たりの受入負担金
また年会費に加えて、特定技能外国人を1名受け入れるごとに、毎月の受入負担金が発生します。受入負担金の金額は、特定技能外国人が受けた試験(特定技能評価試験)や、教育訓練の内容によって変動します(※1)。
対象となる特定技能外国人の別 | 1人当たり受入負担金の月額 |
海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受ける場合) | 2万円(年額24万円) |
海外試験合格者(JACが指定する海外教育訓練を受けない場合) | 1万5,000円(年額18万円) |
国内試験合格者 | 1万3,750円(年額16万5,000円) |
試験免除者(技能実習2号修了者等) | 1万2,500円(年額15万円) |
※1 一般社団法人 建設技能人材機構(JAC)「年会費と受入負担金」
特定技能「建設」を採用する方法
特定技能「建設」の在留資格で、外国人材を採用する方法は2つあります。
- 建設技能人材機構(JAC)を通じた人材紹介
- 技能実習2号から特定技能1号への移行
1. 建設技能人材機構(JAC)を通じた人材紹介
建設技能人材機構(JAC)は、職業安定法第33条第1項に基づいて、特定技能「建設」を取得した外国人材の紹介を無償で行っています(※1)。
外国人材を受け入れたい企業は、建設技能人材機構(JAC)に求人情報を掲載することで、条件に合った特定技能外国人の紹介を受けられます。求人情報の掲載に当たって、手数料などの費用は発生しません。
求人情報の掲載を希望する場合は、建設技能人材機構(JAC)の申し込みフォームを通じて、以下の事項を送信する必要があります(※1)。
- 企業情報(企業・代表者・担当者の情報や主な事業内容など)
- 建設業許可情報(建設業許可、建設業許可年、建設業許可番号など)
- 建設キャリアアップシステム 事業者ID
- 就業についての情報(就労時間、年間労働日数、就労場所など)
- ハローワークの求人票(撮影またはスキャンした画像ファイル)
特定技能「建設」では、建設技能人材機構(JAC)以外の人材紹介は禁止されているため、違法な人材紹介会社に注意しましょう。
※1 一般社団法人 建設技能人材機構(JAC)「無料 求人求職情報」
2. 技能実習2号から特定技能1号への移行
自社で働く技能実習生がいる場合は、在留資格を技能実習2号から特定技能1号へ切り替えることも可能です。技能実習生の方が、技能実習2号を良好な成績で修了している場合は試験が免除されます。特定技能評価試験や日本語試験を受ける必要がないため、特定技能を取得するハードルが下がるというメリットがあります。
優秀な技能実習生にもっと長く働いてもらいたい場合は、特定技能1号への移行により、在留期間を最長5年間延長可能です。
特定技能外国人制度を利用し、即戦力となる外国人材を受け入れよう
2019年4月から、特定技能「建設」による外国人材の受け入れがスタートしました。建設業界の人手不足対策や、現場の若返りの手段として注目が集まり、特定技能外国人の受け入れ数は年々増加しています。
ただし、特定技能「建設」による受け入れを行うには、外国人の方・受け入れ企業の双方が要件を満たす必要があります。建設分野の場合、建設技能人材機構(JAC)への加入や建設キャリアアップシステムへの登録など、業界独自のルールもあるため、しっかりと受け入れ体制を整えることが大切です。
特定技能外国人制度を賢く利用し、即戦力となる外国人材の受け入れを進めましょう。