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2024.08.15
特定技能「宿泊」の特徴や人材を受け入れる方法を紹介
2018年12月に出入国管理および難民認定法の一部が改正され、在留資格「特定技能」が創設されました。これに伴い、宿泊分野でも一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人の受け入れが可能です(※)。
すでに特定技能外国人を雇用し、一定の成功を収めた宿泊施設の事例も存在しています。例えば、インバウンド対応の強化に向けた人手不足の解消や、母国語を含む複数の言語スキルを持つ人材の採用など、受け入れ企業側はさまざまなメリットを得ることが可能です。
本記事では、特定技能「宿泊」が導入された背景や、取得するための要件、対応できる業務の例、受け入れ時の注意点について解説します。
※出入国在留管理庁「宿泊分野における外国人材受入れ(在留資格「特定技能」)」
特定技能「宿泊」とは?
特定技能「宿泊」とは、2019年4月から始まった特定技能制度の対象分野の一つです(※1)。
特定技能制度は、“深刻化する人手不足への対応として、生産性の向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるため”に作られた制度です(※2)。
インバウンド需要の拡大により、訪日外国人旅行者数が増加し、ホテルや旅館などの宿泊施設で人手不足が深刻化しています。そのため、2019年4月に在留資格の特定技能1号が新たに創設され、宿泊分野を含む12分野(今後は16分野に増加する予定)で外国人の受け入れが可能になりました(※1)。出入国在留管理庁によると、2024年4月末の時点で、宿泊分野の特定技能1号在留外国人数は451人となっています(※3)。
また2023年8月には、特定技能2号の対象にも宿泊分野が追加され、熟練したスキルや実務経験を持つ外国人の受け入れが可能になりました(※1)。すでに第1回となる宿泊分野特定技能2号評価試験が行われており、2024年3月に1名の合格者が誕生しています(※4)。
※1 出入国在留管理庁「宿泊分野における外国人材受入れ(在留資格「特定技能」)」
※2 出入国在留管理庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p8
※3 出入国在留管理庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p20
※4 一般社団法人 宿泊業技能試験センター「2023年度第1回宿泊分野特定技能2号評価試験(国内実施)の合格発表」
宿泊業で外国人材が求められている理由
宿泊業において、外国人材の受け入れが必要不可欠となっている理由は2つあります。
- 宿泊分野の人手不足が深刻化している
- 今後のインバウンド需要を支えるための人材確保が必要である
宿泊分野の人手不足が深刻化している
宿泊分野では、賃上げや長時間労働の是正など、国内人材の確保に向けた取り組みを行ってきました。しかし、2022年の有効求人倍率は全国で4.69倍と高く、依然として人手不足の状況が続いています(※1)。
また宿泊業(飲食サービス業も含む)の欠員率も、2022年6月の時点で3.8%に達しており、約2万人に相当する人手不足が生じています(※1)。
※欠員率とは、常用労働者に対する未充足求人の割合のこと(※2)
このように国内人材確保のための取り組みを行ってもなお、人手不足が解消されないことから、外国人材の受け入れが求められるようになりました。
※1 法務省「宿泊分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」p2
今後のインバウンド需要を支えるための人材確保が必要である
今後のインバウンド需要に対応するためには、さらなる人材確保が必要です。政府は2016年3月に「明日の日本を支える観光ビジョン」を発表し、2030年までに訪日外国人旅行者数を増加させ、6,000万人分のインバウンド需要を生み出すという目標を掲げました(※)。
訪日外国人旅行者数がこのままのペースで増加した場合、拡大するインバウンド需要に対応しきれなくなり、2028年に全国で7万4,000人程度の人手不足が発生する恐れがあります(※)。
このような宿泊分野の課題を解決する手段の一つとして、大きな注目が集まっているのが特定技能制度です。政府は2024年からの向こう5年間で、最大2万3,000人の特定技能外国人を受け入れ、人手不足の解消やインバウンド対応の強化に充てることを目標としています(※)。
※ 法務省「宿泊分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」p2
特定技能「宿泊」で対応できる業務の例
特定技能「宿泊」を取得した外国人が従事できる業務は、観光庁が定める分野別運用方針によって決められています。
取得した在留資格が特定技能1号か特定技能2号かによって、業務の範囲が変わってくる点に注意しましょう。特定技能2号を取得した方は、複数の従業員を指導したり、管理監督したりする業務にも従事できます(※1)(※2)。
在留資格 | 業務内容 | 例 |
特定技能1号 | 旅館やホテルにおけるフロント、企画・広報、接客およびレストランサービスなどの宿泊サービスの提供業務 |
【従事する主な業務】
【想定される関連業務】
|
特定技能2号 | 複数の従業員を指導しながら、旅館やホテルにおけるフロント、企画・広報、接客、レストランサービスなどの宿泊サービスの提供業務 |
【従事する主な業務】
複数の従業員を指導しながら、主に以下の業務に従事
【想定される関連業務】
|
特定技能外国人は、従事する主な業務に加えて、ホテルや旅館の土産物販売店における販売業務や、備品の点検・交換などの関連業務に従事できます。ただし、関連業務にのみ従事することは認められません。
詳しい業務内容については、出入国在留管理庁が作成したジョブディスクリプション(職務記述書)で確認することも可能です。
※1 出入国在留管理庁「特定技能1号の各分野の仕事内容(Job Description)」
※2 出入国在留管理庁「特定技能2号の各分野の仕事内容(Job Description)」p8
特定技能「宿泊」を取得するための要件
ここでは、外国人の方が特定技能「宿泊」を取得するための要件について、特定技能1号と特定技能2号に分けて解説します。
特定技能1号を取得するための要件
特定技能1号を取得するためには、一定以上の技能水準と日本語能力が必要です(※)。
技能水準 |
「宿泊分野特定技能1号評価試験」に合格 ※ただし、宿泊分野に関する技能実習2号を良好な成績で修了した方は試験が免除されます。 |
日本語能力 | 「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」への合格 ※ただし、職種を問わず、技能実習2号を良好な成績で修了している方は試験が免除されます。 |
宿泊分野の技能試験は、国内(日本)の会場の他、フィリピン、インドネシア、ネパール、ミャンマーの海外4カ国で受験できます。
特定技能2号を取得するための要件
特定技能2号を取得するためには、特定技能1号よりも熟練した技能水準に加えて、一定以上の実務経験も求められます。特定技能1号と違って、日本語試験に合格する必要はありません。
また宿泊分野に関する技能実習2号を良好な成績で終了していても、技能試験が免除されません(※)。
技能水準 | 「宿泊分野特定技能2号評価試験」に合格 |
日本語能力 | 宿泊施設において複数の従業員を指導しながら、フロント、企画・広報、接客、レストランサービスなどの宿泊サービスの提供に係る業務に従事した実務経験 |
特定技能「宿泊」の外国人材を採用する方法
ここでは、特定技能「宿泊」を取得した外国人材を採用する方法や、必要な手続きについて解説します。
特定技能外国人は直接採用できる
特定技能外国人は、求人情報をホームページなどで公開するか、ハローワークや民間の職業紹介事業者によるあっせんを受けることで直接採用できます。
宿泊分野では、日本旅館協会や日本ホテル協会、全日本シティホテル連盟(JCHA)などの団体が、特定技能外国人向けの求人情報をホームページで公開しています。こうした団体に所属している方は、求人情報の掲載を申し込むとよいでしょう。
宿泊分野特定技能協議会に加入する
外国人材の受け入れに当たって、国土交通省が設置する「宿泊分野特定技能協議会」への加入も必要です。入会金や年会費などはかかりません。
宿泊分野特定技能協議会への入会は、e-Gov電子申請サイトを通じて申し込めます。オンライン上での手続きにしか対応しておらず、郵送での申し込みは受け付けていないため、e-Govアカウントを取得して電子申請を行ってください。
電子申請を行うと、申請日から2週間を目安として入会通知書が発行されます。(※)入会通知書は、地方出入国在留管理局での手続き(在留資格認定証明書交付申請や在留資格変更許可申請など)の際に必要となるため、大切に保管しておきましょう。
※ 出入国在留管理庁「宿泊分野における外国人材受入れ(在留資格「特定技能」)」
特定技能1号外国人は支援計画の作成も必要となる
1号特定技能外国人を受け入れる場合は、外国人の方が円滑に社会生活を営めるようにするため、支援計画(1号特定技能外国人支援計画)の作成が義務付けられています。
支援計画に必要な項目は以下のとおりです(※)。
- 事前ガイダンス
- 出入国する際の送迎
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーション
- 公的手続きなどへの同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援(人員整理などの場合)
- 定期的な面談・行政機関への通報
作成した支援計画は、地方出入国在留管理局での在留諸申請の際に提出する必要があります。支援計画の作成に不安がある方は、出入国在留管理庁長官の登録を受けた登録支援機関に委託することも可能です。
※ 出入国在留管理庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p14
外国人材を採用するときの注意点
ここでは、外国人材を採用する前に知っておきたい注意点を3つ紹介します。
- 受け入れ機関の条件を満たす必要がある
- 外国人材は直接雇用しか認められない
- 受け入れ人数には上限がある
受け入れ機関の条件を満たす必要がある
宿泊分野では、特定技能外国人の受け入れに当たって、以下のような条件が課されます(※1)。
- 旅館業法第2条第2項に規定する「旅館・ホテル営業」の許可を受けた者であること
- 風俗営業法第2条第6項第4号に規定する「施設」に該当しないこと
- 特定技能外国人に対して風俗営業法第2条第3項に規定する「接待」を行わせないこと
風俗営業法第2条第6項第4号における施設とは、いわゆるラブホテルなど、“専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む)”を目的とした施設です。こうした施設で特定技能外国人を働かせたり、風俗営業法第2条第3項における接待(“歓楽的雰囲気を醸し出す方法により客をもてなすこと”)を行わせたりすることはできません(※2)。
※2 e-Gov法令検索「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」
外国人材は直接雇用しか認められない
また特定技能外国人の雇用形態は、直接雇用のみ認められます。農業や漁業など、一部の例外を除いて、派遣やアルバイトといった雇用形態で特定技能外国人を採用することはできません。
宿泊分野で外国人材を受け入れる場合は、必ず正社員・フルタイムでの雇用契約を締結しましょう。
受け入れ人数には上限がある
特定技能制度では、将来的な人手不足の見通しなどを考慮し、外国人材の受け入れ人数の上限を定めています。
宿泊分野の場合、2024年から向こう5年間(2029年まで)の受け入れ人数の上限は、2万3,000人です(※)。もし特定技能在留外国人数が急増し、受け入れ人数の上限に達した場合、それ以上の受け入れができなくなる可能性があります。
特定技能「宿泊」について知り、即戦力となる外国人材の受け入れを
ホテルや旅館などの宿泊施設では、深刻化する人手不足が長年の課題となってきました。今後、インバウンド需要が拡大していくことを考えると、人材確保に向けた取り組みを早急に進めていく必要があります。
そこで注目を集めているのが、2019年4月に始まった特定技能「宿泊」という在留資格です。
特定技能「宿泊」は、宿泊分野において、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人を受け入れる仕組みです。特定技能「宿泊」には、特定技能1号と特定技能2号の2つの在留資格があります。特定技能2号では、熟練した技能を持ち、複数の従業員を指導した実務経験を持つ外国人材を採用することが可能です。
特定技能「宿泊」の特徴や、受け入れに当たっての条件について知り、即戦力となる外国人材を雇用しましょう。