お役立ち
2024.06.10
特定技能「介護」の外国人材を受け入れる5つの手順を徹底紹介
介護業界は、人手不足が深刻化している業界の一つです。厚生労働省の推計によると、令和10年度に必要となる介護分野の就業者数は約253万9,000人で、そのうち約22万7,000人が不足する見込みとなっています(※1)。
こうした現状に対応するため、新たに創設されたのが特定技能「介護」の在留資格です。本記事では、特定技能「介護」で対応可能な業務や、技能実習をはじめとした他の在留資格との違い、特定技能「介護」による受け入れの手順について解説します。
※1 厚生労働省「介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」p2
特定技能「介護」とは?
特定技能「介護」とは、深刻化する人手不足に対応するため、平成31年4月から制度運用が始まった在留資格「特定技能」の1分野です(※1)。特定技能を取得した外国人は、特定技能外国人と呼ばれ、日本国内の施設や事業所での就労が認められます。
特定技能の対象となるのは、12の特定産業分野(“生産性の向上や国内人材の確保のための取り組みを行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野”)です(※1)。介護分野も12の特定産業分野の一つで、インドネシアやミャンマー、ベトナムなど、さまざまな国・地域の出身者が活躍しています。
なお在留資格「特定技能」には、特定技能1号と特定技能2号という2つの区分があります。介護分野での受け入れが可能なのは特定技能1号のみです。
特定技能1号と特定技能2号には、在留期間や家族の帯同など、さまざまな違いがあります。それぞれの違いを下記の表で確認しておきましょう(※1)。
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 通算で上限5年まで | 更新回数に制限なし |
技能水準 | 試験などで確認(技能実習2号を修了した外国人は試験免除) | 試験などで確認 |
日本語能力水準 | 生活や業務に必要な日本語能力を試験などで確認(技能実習2号を修了した外国人は試験免除) | 試験などでの確認は不要 |
家族の帯同 | 基本的に認めない | 要件を満たせば可能(配偶者、子) |
受け入れ機関や登録支援機関による支援 | 対象 | 対象外 |
※1 出入国在留管理庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p8
特定技能「介護」の取得要件
外国人の方が在留資格「特定技能」を取得するには、国内外で実施される技能試験や日本語試験に合格し、一定の技能水準や日本語能力水準があることを示す必要があります。
特定技能「介護」の取得要件は以下のとおりです(※1)。
取得要件 | 試験 |
技能水準 |
|
日本語能力水準 |
|
特定技能「介護」では、日本語能力水準を問う試験が2つある点に注意しましょう。他の分野と共通する日本語試験(国際交流基金日本語基礎テストか日本語能力試験のいずれか)に加えて、介護業務全般に関わる日本語能力を調べる介護日本語評価試験への合格が必要です。
なお、以下の条件に当てはまる方は技能試験や日本語試験(介護日本語評価試験を含む)が免除されます。
- 介護分野の技能実習2号を修了した方
- 介護福祉士の養成施設を修了した方
- EPA介護福祉士候補者として4年間修了した方(※2)
※1 出入国在留管理庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p9
※2 厚生労働省「外国人介護人材受入れの仕組み」p1
特定技能「介護」の現状とこれから
介護分野の特定技能外国人の受け入れ人数は、令和3年12月末の時点で5,155人です(※1)。厚生労働省によると、令和6年度から向こう5年間の受け入れ見込み数は最大で13万5,000人と推計されており、今後ますます受け入れが加速していくことが期待されています(※2)。
また介護分野の特定技能外国人の出身国・地域を見ると、受け入れ人数の約半数はベトナム(2,730人、53.0%)です。しかし今後の受け入れを検討している国・地域に関するアンケート調査では、インドネシア(33.8%)がベトナム(23.7%)を上回っており、ミャンマー(23.7%)にも注目が集まっています(※3)。今後は出身国・地域の面でも、外国人材の多様化が進んでいくと予測されています。
※1 厚生労働省「介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」p2
※2 公益社団法人 国際厚生事業団「特定技能外国人とともに育つよりよい職場づくり」p2
※3 公益社団法人 国際厚生事業団「特定技能外国人とともに育つよりよい職場づくり」p8
特定技能「介護」で対応可能な業務
特定技能「介護」を取得した方が従事できるのは、身体介護に関する業務や、身体介護に付随する支援業務です(※1)。
対応可能な業務 | 例 |
身体介護 | 利用者の心身の状況に応じた入浴、食事、排せつの介助 |
支援業務 | レクリエーションの実施、機能訓練の補助など |
ただし、特定技能外国人が訪問系サービス(訪問介護、訪問看護、居宅介護、訪問入浴サービスなど)に従事することはできません。
※1 厚生労働省「介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」p3
特定技能「介護」で働ける事業所や施設
また特定技能「介護」では、介護などの業務を行える事業所や施設が決まっています。厚生労働省が定める対象施設に該当しない場合、介護分野の特定技能外国人を受け入れることはできません(※1)。
対象施設 | 例 |
児童福祉法関係の施設・事業 |
|
障害者総合支援法関係の施設・事業 |
|
老人福祉法・介護保険法関係の施設・事業 |
|
生活保護法関係の施設 |
|
その他の社会福祉施設等 |
|
病院または診療所 |
|
技能実習や他の在留資格と特定技能「介護」はどう違う?
介護分野では、特定技能「介護」の他にも、技能実習や在留資格「介護」、EPA(経済連携協定)などの制度を利用することで、外国人材の受け入れが可能です(※1)。
制度 | 趣旨 |
技能実習 | 本国への技能移転 |
特定技能「介護」 | 人手不足の解消を目的とした一定の専門性・技能を有する外国人の受け入れ |
在留資格「介護」 | 専門的・技術的分野の外国人の受け入れ |
EPA(経済連携協定) | 2国間の経済連携の強化 |
ここでは、特定技能「介護」以外の受け入れ方法について、それぞれの特徴や違いを紹介します。
技能実習
技能実習は、途上国の外国人を技能実習生として受け入れ、日本で学んだ技術を出身国・地域へ移転することを目的とした制度です。人手不足の解消を目的とした特定技能とは、制度の趣旨が異なります。
技能実習の在留資格を取得した方は、国内の介護施設などで最大5年間実習を受けることが可能です。さらに介護分野の技能実習2号を良好な成績で修了すると、特定技能「介護」の技能試験および日本語試験が免除され、在留期間を延長して働けます。
令和3年のデータによると、技能実習(介護)からの在留資格変更者の割合は約6.5%です(※1)。
※1 公益社団法人 国際厚生事業団「特定技能外国人とともに育つよりよい職場づくり」p2
在留資格「介護」
在留資格「介護」は、特定技能「介護」よりも専門的・技術的な介護人材の受け入れを目的とした制度です。技能実習などの在留資格で入国した方が一定期間の実務経験を積み、介護福祉士国家試験に合格すると、在留資格「介護」を取得できます。
介護分野の特定技能外国人との違いは以下のとおりです。
- 在留期間の制限がない(在留資格の更新は必要)
- 訪問系サービスにも従事できる
なお、介護分野に特定技能2号の在留資格がない理由は、この在留資格「介護」が特定技能2号に当たる役割を果たしているからです。特定技能1号の在留期間は最大5年間ですが、就労中に介護福祉士の資格を取得することで在留資格「介護」に切り替えられます。
EPA(経済連携協定)に基づく受け入れ
日本はインドネシア、フィリピン、ベトナムと2国間のEPA(経済連携協定)を締結しています。このEPAの一環として、外国人を「介護福祉士候補者」として受け入れることが可能です。
介護福祉士候補者は、介護施設などで3年以上の就労・研修に従事すると、介護福祉士国家試験の受験資格が与えられます。また出身国がフィリピンやベトナムの場合は、介護福祉士養成施設を2年以上修了することによっても、受験資格を得ることが可能です(※1)。
特定技能「介護」の外国人材を受け入れるメリット・デメリット
特定技能「介護」による外国人材の受け入れには、メリットだけでなくデメリットもあります。メリット・デメリットをそれぞれ比較し、自社に合った制度を利用して外国人材を雇用しましょう。
特定技能「介護」による受け入れのメリット
特定技能「介護」による受け入れのメリットは2つあります。
- 即戦力となる外国人材を雇用できる
- 将来を担う若手人材を確保できる
在留資格「特定技能」を取得できるのは、一定の技能水準や日本語能力水準を持った外国人のみです。介護分野の場合、特定技能外国人の40.1%が母国の大学・大学院を卒業しており、ちょうど半数(50.0%)が看護あるいは介護の資格を取得しています(※1)。即戦力となる外国人材を雇用し、介護現場の人手不足を解消することが可能です。
また介護分野の特定技能外国人は若手人材が多く、18~29歳の年齢層が72.2%を占めています。介護福祉士の取得意向も約7割の方が持っており、日本で長く働きたいという気持ちを持った意欲あふれる人材がほとんどです(※1)。介護現場の将来を担う、若くてスキルのある外国人材を獲得できます。
※1 公益社団法人 国際厚生事業団「特定技能外国人とともに育つよりよい職場づくり」p2-3
特定技能「介護」による受け入れのデメリット
特定技能「介護」による受け入れのデメリットは2つあります。
- 従事できる業務や施設に制限がある
- 受け入れ手続きに手間がかかる
介護分野の特定技能外国人は、従事できる業務や施設に制限があります。例えば、訪問介護や訪問看護などの訪問系サービスで働くことができません。訪問系サービスで外国人材を活用したい場合は、在留資格「介護」を取得した方を雇用する必要があります。
また介護分野に限らず、在留資格「特定技能」には、外国人材の受け入れ手続きに手間がかかるというデメリットもあります。実際に特定技能外国人の受け入れを行っている企業のうち、62.4%が「手続きが煩雑」と感じている状況です(※1)。
介護分野にしかない手続きもあるため、受け入れ手続きの全体像をしっかりと把握しておきましょう。
※1 公益社団法人 国際厚生事業団「特定技能外国人とともに育つよりよい職場づくり」p7
5ステップで特定技能「介護」を受け入れる手順を解説
ここでは、特定技能「介護」を通じて、外国人材を受け入れる手順を5つのステップで紹介します。
- 受け入れ機関としての基準を満たす
- 外国人材と雇用契約を締結する
- 外国人材への支援計画を策定する
- 特定技能協議会の構成員になる
- 外国人材の在留資格に関する手続きをする
受け入れ機関としての基準を満たす
特定技能外国人を受け入れるには、特定技能基準省令に基づいて、受け入れ機関(企業)としての基準を満たす必要があります。まずは以下の条件を満たしているかを確認しましょう(※1)。
- 労働、社会保険及び租税に関する法令を遵守していること
- 1年以内に特定技能外国人と同種の業務に従事する労働者を非自発的に離職させていないこと
- 1年以内に受け入れ機関の責めに帰すべき事由により行方不明者を発生させていないこと
- 欠格事由(5年以内に出入国・労働法令違反がないなど)に該当しないこと
- 報酬を預貯金口座への振込などにより支払うこと
- 中長期在留者の受け入れまたは管理を適正に行った実績があり、かつ、役職員の中から、支援責任者及び支援担当者を選任していること
- 外国人が十分理解できる言語で支援を実施することができる体制を有していること
- 支援責任者等が欠格事由に該当しないこと
※1 出入国在留管理庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p27
外国人材と雇用契約を締結する
次に外国人材の募集を行い、雇用契約を締結します。すでに日本に在留している外国人(技能実習2号を修了した方など)だけでなく、海外にいる人材(国外試験に合格した方など)と雇用契約を結ぶことも可能です。
雇用契約を締結する際は、特定技能基準省令で定められた以下の基準を遵守する必要があります(※1)。
- 報酬額が日本人が従事する場合の額と同等以上であること
- 一時帰国を希望した場合、休暇を取得させるものとしていること
- 外国人が帰国旅費を負担できないときは、受け入れ機関が負担するとともに契約終了後の出国が円滑になされる措置を講ずることとしていること
※1 出入国在留管理庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p27
外国人材への支援計画を策定する
介護分野では、特定技能外国人の受け入れに当たって、支援計画(1号特定技能外国人支援計画)を策定することが義務付けられています。支援計画とは、特定技能外国人が日本での職業生活、日常生活、社会生活を円滑に送れるようにサポートする計画を意味します。
支援計画には、以下のような内容が必要です(※1)。
- 事前ガイダンス
- 出入国する際の送迎
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーション
- 公的手続きなどへの同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援(人員整理などの場合)
- 定期的な面談・行政機関への通報
支援計画は、特定技能外国人の受け入れを代行する登録支援機関に依頼し、策定してもらうことも可能です。
※1 出入国在留管理庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p14
特定技能協議会の構成員になる
外国人材の受け入れに当たって、介護分野の特定技能協議会の構成員になる必要があります。特定技能協議会とは、“各地域の事業者が必要な特定技能外国人を受け入れられるよう、在留資格「特定技能」の趣旨や優良事例の全国的な周知や、地域別の人手不足の状況の把握・分析”などを行う機関です(※1)。
特定技能協議会への入会手続きの流れは以下のとおりです(※2)。
- 地方出入国在留管理局に「介護分野における特定技能外国人の受入れに関する誓約書」を提出する(2回目以降は「協議会入会証明書」の写しも必要)
- 協議会事務局の申請システムに必要情報を入力し、外国人材の雇用条件書や在留カードなどの添付書類をアップロードする
- 外国人材の受け入れが初回の場合は、「協議会入会証明書」が交付される
※1 出入国在留管理庁「特定技能における分野別の協議会について」p1
※2 厚生労働省「「介護分野における特定技能協議会」手続の流れ」p1~2
外国人材の在留資格に関する手続きをする
最後に必要なのは、出入国在留管理庁に対する在留資格の手続きです。日本国内に在留している外国人か、海外から来日する外国人かによって、手続きの内容が異なります(※1)。
すでに日本国内に在留している方を雇用する場合、出入国在留管理庁に在留資格変更許可申請を行います。本人申請が原則ですが、円滑に手続きを終えられるようにサポートしましょう。在留資格変更許可申請が認められると、在留資格が「特定技能」に変更され、新しい在留カードが交付されます。
海外から来日する方と雇用契約を結ぶ場合は、出入国在留管理庁に在留資格認定証明書交付申請を行います。こちらは受け入れ機関による代理申請が原則です。在留資格認定証明書交付申請が認められると、受け入れ機関に在留資格認定証明書が交付されます。
その後、在留資格認定証明書をその国・地域の在外公館に提出し、査証(ビザ)を申請しましょう。無事に査証が発給されると、在留カードが交付され、日本への入国が認められます。
※1 出入国在留管理庁「手続の流れは? 必要な申請書類は?」
外国人材を受け入れるときの注意点
介護分野で特定技能外国人を受け入れる場合、注意したいポイントが2つあります。
- 雇用形態は直接雇用のみ認められる
- 受け入れ後の転職は自由に認められる
雇用形態は直接雇用のみ認められる
1つ目の注意点は、特定技能外国人の雇用形態です。
特定技能外国人の雇用形態は、農業・漁業の2分野をのぞいて、直接雇用のみ認められます(※1)。例えば、特定技能外国人を派遣社員として雇用することはできないため、雇用契約を結ぶ際に注意しましょう。
※1 厚生労働省「介護分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」p3
受け入れ後の転職は自由に認められる
2つ目の注意点は、特定技能外国人には転職の自由があるという点です。
特定技能「介護」を取得した方は、最大5年間日本で就労できます。しかし、特定技能外国人は転職が認められるため、同じ介護施設で就労を続けるとは限りません。
そのため介護施設側には、特定技能外国人を職場に定着させ、早期離職を防ぐような取り組みが求められます。そうした取り組みの一つが、日本語や介護の勉強に関するサポートです。
実際に介護の技術・能力を高めるサポートを受けている特定技能外国人の52.3%が、現在の仕事に対し満足しています。また日本語の勉強へのサポートを受けている特定技能外国人のうち、71.4%が「5年後も今働いている職場でそのまま働きたい」と感じています(※1)。
そうした取り組みに加えて、介護福祉士の資格取得のサポートや、資格を取得した外国人材への昇給などの仕組みもあるとよいでしょう。
※1 公益社団法人 国際厚生事業団「特定技能外国人とともに育つよりよい職場づくり」p4
特定技能「介護」の外国人材を受け入れる正しい手順を知ろう
特定技能「介護」は、平成31年4月からスタートした在留資格「特定技能」の1分野です。特定技能「介護」を取得できるのは、一定の技能水準や日本語能力水準のある外国人に限られます。特定技能「介護」の創設によって、企業は即戦力として働けるスキルを持ち、かつ日本語でコミュニケーションを取れる外国人材を雇用しやすくなりました。
特定技能「介護」による受け入れは、正しい手順で行う必要があります。外国人材の支援計画の策定や、特定技能協議会への入会手続き、出入国在留管理庁に対する在留資格の手続きなど、受け入れ手続きの全体像をしっかりと把握しておきましょう。