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2023.12.15
特定技能1号とは?対象職種や2号との違いを詳しく解説
2019年4月に新たな在留資格「特定技能」が創設されました。特定技能は、深刻な人手不足に悩む企業の人材確保をサポートするため、一定の技能や知識、日本語能力を持った外国人を受け入れる制度です。
即戦力となる外国人を雇用できるため、企業にとっても大きなメリットがあります。本記事では、特定技能の一つである「特定技能1号」の対象職種や、特定技能2号との違いを詳しく解説します。
特定技能とは?制度の概要を解説
そもそも特定技能とは、専門的な技能やスキルを持ち、日本で働く意思がある外国人の方の「在留資格」を指す言葉です。他の在留資格と違って、12分野14業種の産業分野でのみ就労が認められるのが特徴です。
また、特定技能の在留資格を得るには、産業分野に関する技能試験と、日本語試験の両方に合格しなければなりません。企業にとっては、一定の技能と日本語能力を持った外国人を雇用できるのがこの制度におけるメリットです。
特定技能は、単純労働も含む仕事に従事可能な「特定技能1号」と、熟練した技能や知識が求められる「特定技能2号」の2種類に分けられます。特定技能1号と特定技能2号の違いについては、後の項目で解説します。
特定技能制度とは
特定技能について定めた制度を「特定技能制度」と呼びます。
出入国在留管理庁の特定技能ガイドブックによると、特定技能制度は「生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築する」ために設けられました。[注1]
[注1]出入国在留管理庁:「特定技能ガイドブック」P3(参照2023-11-09)
特定技能制度が必要な理由は、中小企業を中心とした人手不足です。少子高齢化などが原因で、人手不足の問題が深刻化したことによって、「人手が欲しいのに、国内の人材が集まらない」「ハローワークの求人に反応してくれる人が少ない」といった悩みを抱える企業が増加しました。
特定技能制度は、即戦力となる外国人を受け入れ、企業の人材確保をサポートする狙いがあります。特定技能制度は介護、建設、農業や漁業など、一部の産業分野でしか利用できませんが、一定の技能や知識を持った外国人を雇用できるというメリットがあります。
特定技能制度が認める在留資格の中でも、受入れ機関や登録支援機関による支援が必要で、かつ在留期間の上限が定められたものが「特定技能1号」です。
特定技能1号の特徴
特定技能1号は、「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」です。[注1]
日本で技能を学ぶ技能実習と違って、すでにある程度の知識や経験を持った外国人を対象としています。即戦力として働くことができるだけでなく、日本語の日常会話能力も求められるのが特徴です。
特定技能1号には、在留期間が定められており、上限5年までしか就労が認められません。在留中は、1年、6カ月または4カ月ごとに在留資格を更新する必要があります。
家族の帯同も認められないため、日本での生活や在留資格の更新も含めて、企業や受入れ機関がしっかりとサポートしていく必要があります。
特定技能1号の対象職種
出入国在留管理庁のリーフレットによると、特定技能1号の対象となるのは、以下の12分野14業種です。[注2]
特定産業分野 | 分野所管行政機関 | 従事する業務 | |
1 | 介護 | 厚労省 |
※訪問系サービスは対象外 |
2 | ビルクリーニング |
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3 | 素形材産業 | 経産省 |
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4 | 産業機械製造業 |
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5 | 電気・電子情報関連産業 |
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6 | 建設 | 国交省 |
内装仕上げ/表装保温保冷左官屋根ふきとび吹付ウレタン断熱
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7 | 造船・舶用工業 |
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8 | 自動車整備 |
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9 | 航空 |
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10 | 宿泊 |
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11 | 農業 | 農水省 |
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12 | 漁業 |
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13 | 飲食料品製造業 |
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14 | 外食業 |
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[注2]出入国在留管理庁:「在留資格「特定技能」が創設されました」P3(参照2023-11-09)
特定技能1号の在留資格を取得すると、介護やビルクリーニング、自動車整備、航空、宿泊、農業や漁業など、さまざまな職種で就労が認められます。
特定技能1号と2号の違い
上限5年までしか就労が認められない特定技能1号に対して、就労可能期間の制限がないのが特定技能2号です。
特定技能2号は、以前まで「建設分野」「造船・舶用工業分野」の2分野でしか外国人の受け入れができませんでした。しかし、2023年6月9日に「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」が変更され、介護分野以外の9分野でも就労が認められるようになっています。[注3]
[注3]出入国在留管理庁:「特定技能2号の対象分野の追加について(令和5年6月9日閣議決定)」(参照2023-11-09)
ここでは、特定技能1号と2号の違いを5つのポイントで解説します。
在留期間
特定技能1号は在留期間の上限が5年までで、在留資格の更新は1年、6カ月または4カ月ごとに行う必要があります。一方、特定技能2号は在留期間の上限がありません。在留資格の更新は3年、1年または6カ月ごとに行います。
技能水準
特定技能2号は、「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」です。[注1]職種によって異なりますが、特定技能2号を取得するには、特定技能1号よりも高い技能水準が求められます。
例えば、特定技能2号は他の技能者を指導しつつ自身も作業を行い、さらに作業工程を管理することを要求される一方で、特定技能1号は指示や監督に従いながら作業を行うことまでを技能水準として求められる、などといった違いがあります。
日本語能力水準
特定技能1号は、技能水準を調べるための試験に加えて、日本語試験に合格する必要があります。一方、特定技能2号では日本語能力水準について試験での確認が不要とされているのが特徴です。ただ、特定技能2号はより熟練した高度な技能水準に加えて、監督者としての業務統括も求められることから、実質的にはより高度な日本語能力が求められていると言えます。
家族の帯同
在留資格が特定技能1号の場合は、家族の帯同が基本的に認められず、自身のみで生活する必要があります。特定技能2号の場合、条件付きで配偶者や子の帯同が認められる可能性があります。帯同した配偶者や子は在留資格を与えられ、日本で暮らすことが可能です。
支援の有無
特定技能1号は、外国人を対象とした支援の対象です。外国人の受入れ機関(雇入れを行う企業など)や、登録支援機関(外国人労働者を支援する団体)から、生活に関する相談や日本語学習の機会の提供など、さまざまな支援を受けられます。特定技能1号の受け入れにあたって、企業は支援計画を作成し、外国人のサポート体制の整備に努めなければなりません。
一方、特定技能2号は外国人支援の対象外です。特定技能2号を受け入れる企業も、支援計画などを作成する必要はありません。
特定技能1号の取得方法
外国人の方が、特定技能1号を取得する方法は2つあります。
- 技能試験と日本語試験(特定技能評価測定試験)に合格する
- 技能実習2号の在留資格から特定技能1号に移行する
技能試験と日本語試験(特定技能評価測定試験)に合格する
特定技能1号を取得するには、特定産業分野で定められた技能試験と、日本語試験の両方に合格しなければなりません。技能試験と日本語試験を合わせて、特定技能評価測定試験と呼ぶ場合もあります。
例えば、介護分野の場合は「介護技能評価試験」や「介護日本語評価試験」、建設分野の場合は「建設分野特定技能1号評価試験(日本語試験も含む)」への合格が必要です。[注4]
[注4]出入国在留管理庁:「試験関係」(参照2023-11-09)
技能実習2号の在留資格から特定技能1号に移行する
特定技能1号は、例外的に技能実習2号の在留資格からの移行が認められています。技能実習2号を良好な成績で修了した場合、そのまま特定技能1号へ移行し、日本で働くかどうかを選ぶことが可能です。
ただし、技能実習2号の内容と特定技能1号の職種に関連性がない場合、在留資格の移行は認められません。
特定技能外国人の受け入れ方法
特定技能1号を取得した人(1号特定技能外国人)を受け入れるには、さまざまな手続きが必要です。企業が受入れ機関となって、特定技能外国人を受け入れる流れは以下のとおりです。
- 外国人が技能試験および日本語試験に合格する(技能実習2号から移行する外国人は免除)
- 受入れ機関と雇用契約を締結する
- 日本での生活などに関する事前ガイダンスや健康診断を実施する
- (海外から来日する外国人の場合)地方出入国在留管理局に在留資格認定証明書の交付申請をする
- (日本国内の在留外国人の場合)地方出入国在留管理局に在留資格変更の許可申請をする
- 在留資格認定証明書の交付(または在留資格変更の許可)が認められたら、受入れ機関で就労を開始する
このように特定技能外国人の受け入れには、さまざまな手続きが必要になるため、企業にとって負担が大きいのが現状です。受け入れ手続きの負担を減らしたい場合は、外国人への支援や在留資格に関する手続きなどを代行する登録支援機関を利用することをおすすめします。
特定技能外国人を受け入れるメリット
特定技能外国人を受け入れるメリットは5つあります。
- すぐに活躍できる即戦力を確保できる
- 必要な人材を必要なだけ雇用できる
- 就労可能な産業分野が少ないため、転職するリスクを抑えられる
- パートやアルバイトではなく、フルタイムで雇用できる
- 技能実習2号として働いている人を継続して雇用できる
すぐに活躍できる即戦力を確保できる
特定技能制度を利用すれば、すぐに活躍できる即戦力を確保できます。特定技能の在留資格を持つ人は、一定以上の知識や経験を持つだけでなく、日本語でコミュニケーションをとることが可能です。人材不足を解決する貴重な手段として、中小企業を中心に特定技能外国人を受け入れる動きが広がっています。
必要な人材を必要なだけ雇用できる
特定技能制度は、介護と建築の2分野を除いて、特定技能外国人の受け入れ人数の制限がありません。自社の人手不足の状況に合わせて、必要な人材を必要なだけ雇い入れることができます。
特に単純労働も含む特定技能1号は、人手不足を解消する貴重な手段として注目を集めています。
就労可能な産業分野が少ないため、転職するリスクを抑えられる
現行の技能実習制度と違って、特定技能外国人は日本国内での転職が可能です。しかし、特定技能外国人が就職可能な職種は、12分野14業種に限られています。
そのため、特定技能外国人は転職リスクが比較的少ないことも特徴です。例えば、特定技能1号は上限5年まで、というように即戦力の労働者に長く働いてもらうことができます。
パートやアルバイトではなく、フルタイムで雇用できる
在留資格によっては、外国人のフルタイム雇用が認められていません。また、勤務時間に制限がある在留資格も多く、パートやアルバイト、派遣などの雇用形態に限られているのが現状です。
しかし、特定技能制度は、在留資格を持った外国人の直接雇用(正社員)を原則としています。知識や経験を持った労働者にフルタイムで働いてもらうことができるため、人手不足を補うことができます。
技能実習2号として働いている人を継続して雇用できる
すでに技能実習生を雇い入れている場合は、特定技能制度を利用して、技能実習生を継続して雇用できる可能性があります。前述のとおり、技能実習2号を優れた成績で修了した外国人は、在留資格を特定技能1号に変更することが認められています。
技能実習2号として働いている人の在留資格を特定技能1号に切り替えれば、優秀な人材を継続的に雇用することが可能です。
特定技能外国人を受け入れるときの注意点
一方、特定技能外国人の受け入れには注意点も3つあります。
- 国によっては、相手国での手続きが必要になる
- 特定技能1号は在留期間の制限が設けられている
- 原則として、日本人と同等以上の条件で雇い入れる必要がある
国によっては、相手国での手続きが必要になる
特定技能外国人の国籍によっては、相手国側で手続きをしなければならない場合があります。例えば、ベトナム人の特定技能外国人を受け入れる場合、送出機関がベトナム労働・傷病兵・社会問題省海外労働管理局(DOLAB)で手続きを行って、ベトナム政府の承認を得る必要があります。
企業が単体で手続きを行うのは難しいため、登録支援機関と協力しながら外国人の受け入れを進めましょう。
特定技能1号は在留期間の制限が設けられている
特定技能外国人のうち、特定技能1号の在留資格で入国した人は、通算5年間の在留期間の制限があります。在留期間が終わった場合は、母国へ帰国するか、別の在留資格に変更する手続きが必要です。
原則として、日本人と同等以上の条件で雇い入れる必要がある
特定技能制度に関するよくある誤解が、特定技能制度は「外国人を安価な労働力として雇い入れる制度」というものです。しかし、出入国在留管理庁が作成した「特定技能制度に関するQ&A」には、以下のような記載があります。[注5]
“報酬額が日本人と同等以上であることや、通常の労働者と同等の所定労働時間であること、外国人が一時帰国を希望する際には必要な有給休暇を取得させることなどに留意してください。”
特定技能制度を通じて外国人を雇い入れる場合、原則として、日本人と同等以上の条件で雇用契約を締結する必要があります。農業と漁業の2分野を除いて、雇用契約も正社員の直接雇用しか認められていません。
外国人に対して不利益となるような条件を提示すると、トラブルに発展する可能性があるため、注意してください。
[注5]出入国在留管理庁:「特定技能制度に関するQ&A」P12(参照2023-11-09)
技能実習制度の今後
現在、政府の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」によって、技能実習制度の見直しが図られています。技能実習制度に代わる新制度では、技能の習得を目的として日本を訪れた外国人が、より日本で雇用先を見つけやすい仕組みになるように検討されています。
有識者会議の最終報告書によると、3年間の育成期間を経た後、技能試験や日本語能力試験に合格した場合、自動的に特定技能1号の在留資格が得られる制度となる予定です。[注6]
従来の技能実習制度の問題点は、技能実習で学ぶ内容と、特定技能制度の対象となる職種に乖離があり、技能実習生がスムーズに特定技能1号の在留資格を得られない点にありました。新制度では「人材育成」「人材確保」により重点をおいて、中小企業をはじめとした人手不足に悩む企業をサポートします。
ただし、上記の内容は、有識者会議で最終案として提言されたものです。具体的な制度設計や、新制度の施行時期は未定のため、参考程度にしてください。
今後、技能実習制度の在り方が変わっていくことが予測されています。人手不足の解消のため、特定技能外国人の受け入れを検討している場合は、技能実習制度に代わる新制度にも注目しましょう。
[注6]出入国在留管理庁:「最終報告書たたき台(概要)」P2(参照2023-11-20)
特定技能1号の対象職種やメリットを知り、即戦力となる外国人を受け入れよう
特定技能1号は、介護やビルクリーニング、自動車整備、航空、宿泊、農業や漁業など、特定の産業分野で外国人を受け入れる仕組みです。他の在留資格と違って、特定技能1号の取得には、技能試験と日本語試験の合格が必要となります。企業にとっては、日本語でコミュニケーションがとれ、即戦力となる外国人を雇用できるのがメリットです。
ただし、特定技能外国人を雇い入れる場合、日本人と同等の条件で雇用契約を締結する必要があります。また、特定技能1号は在留期間の制限が設けられており、最長で5年間しか日本で働けません。
特定技能1号の対象職種やメリット・デメリットを知った上で、制度を利用することが大切です。